若者は政治に無関心か|投票率・NPO・推し活で読む半世紀
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序章 「私たちの時代」と「子どもたちの時代」
- 日本の若者政治参加を1960年代から2024年まで約60年にわたって追う視点
- 投票率以外の参加形態(NPO・ボランティア・推し活)の変遷
- 「無関心か、形の変化か」という本記事の根本的な問い
ドイツの社会学(1928)は、同じ時代を青春期に生きた人びとは共通の「世代経験」を持つと論じたとされています。1960年代に10代・20代だった人は安保闘争を、1970年代に青春期を過ごした人はオイルショックと「しらけ」を、1990年代の若者はバブル崩壊と就職氷河期を、それぞれ骨身に刻んでいるという見方です。
この記事では、日本の若者と政治・社会参加の関係を1960年代から2024年まで約60年にわたってたどります。投票率というひとつの数字だけでなく、NPO参加・ボランティア・気候運動・SNS署名・推し活的政治参加など、時代ごとに変化してきた「参加の形」を12のグラフとともに読み解きます。
問いは単純です。若者は本当に政治に無関心になったのか、それとも参加の形が変わっただけなのか。
- ① 若者の政治離れは「意識の問題」ではなく「社会構造の変化」として捉えることが重要とされています
- ② 世代ごとの「共通経験」(マンハイム1928)が参加の形を規定するという見方があります
- ③ 本記事は投票率にとどまらず、参加の多様な形態を12のデータとともに検証します
第1章 1960年代 政治の季節と全共闘
- 1960年代の安保闘争と若者の政治参加の構造的背景
- 全共闘運動の規模とその社会的文脈
- 「参加せざるを得ない構造」という視点からの再解釈
1960年6月、日米安全保障条約の改定をめぐって、国会周辺に30万人規模の群衆が集まったとさ(2009)は『1968』のなかで、この時代の学生運動を「政治が若者の日常に深く食い込んでいた時代」として描いていると見られています。
関連する文化的背景: 1960年代の日本ドラマが映す社会変化
1968年には全共闘運動が全国の大学に広がり、翌年1月の東大安田講堂攻防戦で頂点を迎えたとさ(1962)が描いた「公共圏」、つまり市民が政治について議論する場が、当時の学生にとってはキャンパスそのものだったという解釈もあります。
しかし1972年、連合赤軍のあさま山荘事件が起きます。過激化した一部の活動への幻滅が広がり、一般学生は急速に運動から離れていったとされています。この「参加から離脱」という動きは、後の時代への転換点として語られることが多いようです。
- ① 1960年代は政治参加が若者の日常に深く組み込まれていた時代とされています(小熊英二2009)
- ② 学生運動は1968-69年に頂点を迎え、その後急速に退潮していきます
- ③ 「意識の高さ」だけでなく、時代の構造が参加を促していたという解釈があります
第2章 1970-80年代 「しらけ世代」と消費社会化
- 「しらけ世代」という言葉が生まれた社会的背景
- 脱物質主義(イングルハート1977)から見た参加形態の変化
- 消費文化への移行と政治参加の関係
連合赤軍事件の後、若者の政治離れが始まったとされています。この時代の若者は「しらけ世代」と呼ばれることがあります。しかしロナ(1977)の脱物質主義論は、別の読み方を示しているとも言えます。
イングルハートは、先進国の若者が物質的豊かさを達成するにつれて、政治参加の形が「票を投じる」という制度的行動から、環境・平和・個人の権利といった「価値志向型参加」へ移行すると論じたとされています。1970-80年代の日本は高度成長の恩恵を受けながら、消費文化へと没入していく時代でした。
消費文化の広がりと若者の意識変化については、バブル世代が中年を迎える現在の心理も参照してください。
山田昌弘(1999)はこの時代の若者を「パラサイト・シングル」という概念で描こうとしました。親元で快適に暮らしながら消費を楽しむ若者像は、政治的無関心(2005)は「下流社会」の観点から、この時代の格差意識が後に表面化すると見ていたようです。
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- ① 「しらけ世代」は無関心ではなく、参加の形が変化した時代とも解釈されています(イングルハート1977)
- ② 消費文化への没入は、物質的豊かさの達成と連動しているという見方があります
- ③ 1970-80年代の変化は「政治離れ」ではなく「価値観の転換」として読む視角があります
第3章 1990年代 バブル崩壊と社会参加の再定義
- バブル崩壊と就職氷河期が若者の社会参加に与えた影響
- 社会関係資本(パトナム2000)の観点からの分析
- 経済的不安定と政治参加意欲の関係
1991年のバブル崩壊は、日本社会の構造を根底から揺さぶったとされています。就職氷河期と呼ばれる時代(1993-2004年頃)に社会に出た若者は、終身雇用という「契約」が破られた最初の世代として語られることがあります。
この時代を生きた30-50代の現在については、ミッドライフクライシスを迎えたバブル世代の心理で詳しく扱っています。
<(2000)は『Bowling Alone』で、アメリカにおける「社会関係資本」の衰退を論じたとされています。地域のクラブ・PTA・宗教団体への参加が減り、孤独化が進んでいるという観察です。日本でも同様の傾向が指摘されることがあります。
古市憲寿(2011)は『絶望の国の幸福な若者たち』で、当時の若者は「格差はあるが今の生活に満足している」という逆説的な状況を生きていると(2008)は『軋む社会』で、教育・仕事・生活の三つの軸がどれも機能不全に陥った状況を「軋み」と表現したとされています。
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- ① バブル崩壊後の就職氷河期は、若者の社会参加の前提条件を変えたとされています
- ② (2000)の社会関係資本論は、この時代の日本にも適用される視点として参照されます
- ③ 1990年代の変化は、後のNPO参加拡大への土台を作ったという解釈もあります
第4章 1995年 阪神大震災とボランティア元年の衝撃
- 1995年阪神大震災が「ボランティア元年」と呼ばれる理由
- 130万人以上の自発的参加が示した市民社会の潜在力
- 「呼ばれずに動く」自律的参加の意義
1995年1月17日、阪神・淡路大震災が起きます。行政の対応が追いつかない状況のなかで、推定130万人以上(山岡義典1999)のボランティアが自発的に被災地に入ったとされています。この年は「ボランティア元年」と呼ばれることがあります。
重要なのは、参加者の多くが「呼ばれたわけでも、動員されたわけでもなかった」という点です。これは、(1977)が提唱した「自己効力感(self-efficacy)」と接続して語られることがあります。自分の行動が状況を変えうると感じられるとき、人は動くという考え方です。
内閣府の白書によれば、1995年の震災ボランティア経験が、その後のNPO法制化議論を加速させたとされています。「行政ではできないことを、市民が担う」という概念が、この出来事によって可視化されたという見方もあります。
- ① 1995年は推定130万人以上のボランティアが被災地に入り、「ボランティア元年」と呼ばれます(山岡義典1999)
- ② 自発的参加の広がりは、制度化されていない市民社会の底力を示したとされています
- ③ この経験が3年後のNPO法制化への社会的気運を高めたと言われています
第5章 NPO法制化1998年 制度化された社会参加
- 1998年NPO法制定の経緯と制度化の意義
- 認証団体数の急増(23団体から51,867団体へ)が示す参加の「見えやすさ」
- 制度的参加と若者の社会起業の関係
阪神大震災から3年後、1998年3月、「特定非営利活動促進法」(NPO法)が国会で成立します。この立法は、超党派の「NPO議員立法研究会」が中心となってまとめたとされており、市民団体・行政・議員の三者が議論を重ねた末の成果とされています(田中弥生2008)。
サラモン(1994)は、1990年代に世界各地で起きたNPOセクターの台頭を「非営利革命」と呼んだとされています。日本のNPO法制化は、この世界的潮流の日本版とも言えます。
組織への帰属と若者の価値観については、Z世代が宗教を求める理由 組織帰属の心理も参照ください。
NPO法が画期的だったのは、「所轄庁が認証申請から原則2ヶ月以内に決定する」という迅速さと、活動分野を20種類(当初12種類)に明示したことだとされています。それまで法人格を持てなかった市民団体が、銀行口座開設・契約・補助金受け取りができるようになりました。
認証団体数は1998年の23団体から急増し、2001年には1万団体を超え、2017年にはピークの51,867団体に達したとされています(内閣府NPOホームページ統計)。この制度化は、参加の「見えやすさ」を大幅に高めたと言えます。
この時代に起業した若者として語られるのが、フローレンス(2004年設立)やカタリバ(2001年設立(1977)の言う「成果が見える参加」が、NPOという器によって可能になったという解釈もあります。
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- ① 1998年のNPO法制化により、市民団体が法人格を持てるようになりました
- ② 認証団体数は2017年にピーク51,867団体に達し、参加の「制度的可視性」が高まりました(内閣府統計)
- ③ (1977)の自己効力感理論は、NPOを通じた「成果が見える参加」の重要性を示します
第6章 2000年代 ロスジェネとSNS黎明期
- ロスト・ジェネレーションが直面した経済的排除と参加の困難
- SNS黎明期(mixi・2ちゃんねる)と政治的表現の変化
- 経済的不安定と社会参加意欲の相関
2003年から2006年頃が就職氷河期の最底部とされています。この時期に大学を卒業した若者は「ロスト・ジェネレーション(ロスジェネ)」と呼ばれること(2008)は、教育が約束していた「努力すれば報われる」という物語が崩れた世代と描いています。
この時代の若者が抱いた感情構造については、シャーデンフロイデ 他人の不幸を喜ぶ心理を脳科学で解説で触れています。
2004年頃にはmixiが、2005年には2ちゃんねる(現5ch)が隆盛を(2009)は『Communication Power』で、デジタルネットワークが「擬似公共圏」を生み出すと論じたとされています。現実社会での参加機会を持ちにくい若者にとって、オンライン空間が「声を出す場」になっていったという見方もあります。
<(2005)の「下流社会」論が話題になったのもこの時代です。格差への不満は存在したものの、それが投票行動や運動に結びつくには別の仕掛けが必要だったと言えるかもしれません。
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- ① 2000年代は就職氷河期世代(ロスジェネ)が「努力しても報われない」という感覚を持つ時代とされています(本田由紀2008)
- ② SNS黎明期の登場は、政治的表現の回路を広げた一方で、断片化も進めたとされています
- ③ 経済的安定と政治参加の相関は、この時代のデータにも反映されています
第7章 2010年代 SEALDs・原発反対・気候運動
- SEALDs(2015年)と若者の制度外政治参加の可視化
- 原発反対運動・気候ストライキにみる参加形態の多様化
- 組織化されない参加と既存政治との距離
2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故は、若者の社会参加を再び可視化させたとされています。同年夏以降、首相官邸前での反原発デモが毎週開かれ、最大で17万人(主催者発表)が集まったとされます。
この時代のSNSと社会参加の関係については、SNS時代の自己呈示と政治的発言の心理も参照ください。
2015年から2016年には、安全保障関連法案への反対を訴えるSEALDs(Students Emergency Action for Liberal Democracy-s)が(2017)は『社会運動と若者』で、この運動の参加者が「ふつうの学生」であることを強調した点を特徴として分析しています。
<(2002)は『Democratic Phoenix』で、従来の政治参加(投票・政党)が衰退する一方で、抗議行動・署名・不買運動といった「非制度的参加」が世界的に増えていると論じたとされています。2010年代の日本はまさにその移行期にあたると言えるかもしれません。
- ① 2015年のSEALDsは若者の制度外政治参加が社会的注目を集めた象徴的な出来事です
- ② 気候運動(Fridays for Future)は2018年以降、世界規模で若者参加を促す運動となっています
- ③ 制度外参加は「無関心」ではなく、既存制度への不信と新たな参加形態の模索とも解釈されます
第8章 2020年代 Z世代の「ライフスタイル政治」
- Z世代の「ライフスタイル政治」とは何か
- 推し活・SNS署名・ハッシュタグ運動の政治的意味
- 個人化された参加と集合的アクションの関係
日本財団の「18歳意識調査」第62回(2024年)によれば、「自分たちが社会を変えられると思う」と答えた日本の若者は6カ国中最低水準(15.3%)とされています。しかしこの数字だけで「無関心」と結論づけることは難しいという見方もあります。
Z世代の価値観と組織帰属については、Z世代が宗教を求める理由で詳しく取り上げています。また「推し活的政治参加」については、推し活 なぜ人気?熱狂を生む心理と社会的背景も参照ください。
近年注目されるのは「ライフスタイル政治」あるいは「推し活的政治参加」と呼ばれる現象です。特定の候補者や政策を「推す」という感覚で、SNSでシェアしたり、クラウドファンディングで支援したりする参加形態(1977)が指摘した「価値志向型参加」のデジタル時代版とも解釈されます。
カステルス(2009)は、ネットワーク社会における権力は「通信ネットワークをプログラムする者」にあると論じたとされています。Z世代が「バズらせる」ことで政治的議題を設定しようとする動きは、この概念と重なる面があるという指摘があります。
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2024年は日本の選挙が「SNS情報空間」と本格的に交差した年として記録されます。特定の政党・候補を評価することなく、「参加の形がどう変化したか」という観点で4つの事例を整理します。
- ① Z世代は「投票」以外の多様な政治的表現(SNS署名・推し活的支持・ハッシュタグ運動)を活用しています
- ② 個人化された参加は「無関心」の裏返しではなく、参加形態の変容として理解できます
- ③ 2024年の選挙データは、Z世代のSNS経由の政治情報接触が急増していることを示します
2024年7月 東京都知事選:SNS選挙の可能性と限界
2024年7月の東京都知事選は、YouTube・X(旧Twitter)を主軸とした選挙活動が可視化された選挙として注目されました。ある候補が得票数2位となり、20-30代での相対的な支持率の高さが複数の出口調査で報告さ(2015)が指摘したメディアと選挙の関係が、個人チャンネルレベルで再現されたという解釈も可能です。
注目されるのは、「政策の細部よりも人物の物語性」が評価される傾向です。ベ(2013)の「コネクティブ・アクション」論が指摘するように、共通のアイデンティティよりも個々の共感が参加の引き金になる構造は、SNSと政治の親和性を高めていると見る研究者もいます。
2024年11月 兵庫県知事選:情報空間の対立構造が顕在化
2024年11月の兵庫県知事選は、既存メディアとネット上の情報空間が異なる文脈を形成した事例として研究者の関心を集めま(2016)が分析した「政治的乱気流(Political Turbulence)」の概念、すなわちソーシャルメディアが予測困難な集合行動を生み出す現象が、日本国内でも観察された可能性があります。
田中辰雄(2024)は『ネット世論で社会は分断するか』(慶應出版会)のなかで、ネット情報空間が完全な「分断」を生んでいるとは言い切れないと論じながらも、人々の既存の信念を強化する方向への偏りは一定程度確認されると述べています。兵庫知事選はその議論の実例として参照されることが増えています。
2024年10月 衆院選:メッセージングと20-30代の動向
2024年10月の衆院選では、複数の政党が「家計」「実質賃金」「物価高」に直結したメッセージを前面に押し出しました。選挙後のアンケート調査(NHK・読売新聞ほか)では、20-30代が「経済・生活」を投票判断の主要理由とする割合が従来より高まった傾向が報告されています。
(2017)の指摘する「生活圏に近い問題への反応」が選挙に結びつきやすい状況を示すものとも読めます。総務省の発表によれば、2024年衆院選における20代投票率は前回(2021年・36.5%)を若干下回り約34%台となりましたが、選挙ごとの変動幅は縮小傾向にあります。
参政党・SNSコミュニティ型政党モデル
2022年参院選から注目を集めている参政党は、党員がYouTubeチャンネル・勉強会・地域コミュニティを通じて横に繋がる「SNSコミュニティ型政党」の実例として社会学的な関心を持って研究されていま(2009)の「ネットワーク組織」論や、ベ(2013)のコネクティブ・アクション論と接続可能な現象です。特定の思想的立場を評価するものではなく、政党組織の変容パターンとして記録されます。
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第8章補 SNS時代の政治参加の光と影
- SNSが政治参加の「光」(情報共有・集合行動)にもたらす効果
- フィルターバブルとエコーチェンバーという「影」の問題
- 2024年選挙でのSNS活用の事例と分析
2024-2025年の日本の情報空間を観察するうえで避けられないのが、SNSが政治参加に与える「光と影」という問題です。
「光」の側面としては、参加コストの低下があります。署名・クラウドファンディング・問題提起は以前より容易になりました。ベ(2013)は、この変化を「コネクティブ・アクション」と名付け、組織に依存しない個人ベースの集合行動として分析しています。
「影」の側面としては、フィルターバブルとエコーチェンバーがあります。フィルターバブルとは、アルゴリズムが各ユーザーの関心や傾向に合わせた情報だけを表示し、異なる意見に触れにくくなる現象です。エコーチェンバーとは、同じ意見の人同士が集まり、信念が強化・過激化していく傾向です。
田中辰雄(2024)は、ネット空間がただちに完全な「分断」を生むとは言えないと指摘しつつも、「確証バイアスを強化する傾向はある」と述べています。この議論は、若者が特定の情報環境に閉じることで政治的現実の認識がずれていく可能性を示唆しています。
さらに2024-2025年にかけて、生成AIによる政治関連コンテンツの自動生成・拡散が新たな課題として浮上しています。フェイクニュース研究の文脈では、AIが生成したリアルな偽情報・偽動画(ディープフェイク)が投票行動に影響を与えるリスクが国内外で報告されています。ファクトチェック機関(NPO法人FactCheck Initiative Japanほか)の活動が重要性を増しているのは、こうした情報環境の変化への対応です。
マージェッツら(2016)が「Political Turbulence」で描いたように、ソーシャルメディアは政治参加の活性化と同時に、予測困難で感情的な政治過程を生み出す側面も持ちます。若者が「参加しやすい」環境になった一方で、「何を信じてよいかわからない」という情報不信も同時に広がっているという調査結果(日本財団「18歳意識調査」2024年、NHK放送文化研究所)も見られます。
- ① SNSは情報へのアクセスを民主化した一方、フィルターバブルによる分極化リスクも高めています
- ② 2024年の東京都知事選・兵庫県知事選では、SNSが選挙結果に影響した可能性が論じられています
- ③ 政治的中立性と情報の多様性確保が、SNS時代の重要な課題として浮上しています
- 日本財団調査(2024)では「自分が社会を変えられる」感覚が6カ国中最低水準とされていますが、参加形態の読み取り方には注意が必要です
- 「推し活的政治参加」はイングルハートの価値志向型参加のデジタル時代版と解釈する研究者もいます
- カステルス(2009)のネットワーク権力論は、SNS時代の若者の政治参加を分析する枠組みのひとつです
第9章 「無関心」神話を統計で検証する
- 20代投票率・政治関心度・自己効力感の10データを統計的に検証
- ジェンダー・地域・学歴・国際比較の4軸から「無関心神話」を再検討
- 日本の若者投票率の国際的位置づけ(6カ国比較)
本章では「若者は政治に無関心」という命題を、10のデータから多角的に検証します。特に重要な4軸として、ジェンダー差・地域差・学歴差・国際比較の視点を中心に読み解きます。
ここで、よく語られる「若者の政治的無関心」という命題を、複数の統計から検証してみます。
- ① 複数の統計データは「若者は無関心」という単純な命題を支持しないことを示しています
- ② ジェンダー・地域・学歴による参加格差は、「若者」を一括りにする議論の限界を示します
- ③ スウェーデン等との国際比較は、制度設計(主権者教育・投票環境)が参加率に大きく影響することを示唆します
データ1 20代投票率の推移
総務省の調査によれば、衆院選における20代の投票率は1967年の66%から2024年には34.62%へ低下しているとされています(図表1参照)。これは事実です。しかし投票率が参加意識のすべてを表すわけではないという見方もあります。
データ2 NHK政治関心度調査
NHK放送文化研究所が5年ごとに実施する「日本人の意識調査」では、「政治に関心がある」と答える割合は1973年の72%から2023年の51%へと低下していますが、投票率ほど急激ではありません(図表7参照)。関心と行動の間に乖離があるという解釈が可能です。
データ3 若者の政治的有効性感覚
東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター(SSJDA)の調査では、「自分の投票は政治を変える」という「政治的有効性感覚」が若年層ほど低い傾向が報告されていると(2002)が指摘するように、制度への不信が非制度的参加への移行を促すという理解も可能です。
データ4 孤立感と社会参加の関係
厚生労働省「自殺対策白書」によれば、若者の孤立感は2000年代以降上昇傾向が指摘さ(2000)の社会関係資本論が示すように、孤立は参加の前提となる「つながり」を削いでいく可能性があるという見方もあります。
孤立感の感情的側面については、シャーデンフロイデを脳科学で解説 孤立とネット感情の関係も参考になります。
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データ5 2024年衆院選・都知事選の年代別投票行動
総務省の発表によれば、2024年10月衆院選での20代投票率は約34%前後とされており、2021年(36.5%)をわずかに下回りました。一方、60代の投票率は約73%前後を維持しており、世代間格差は依然として大きい状態です。ただし2024年7月の東京都知事選では、一部調査において30代以下の投票率が従来より高まったとする報告もありました。
ファ(2006)の「投票行動の動機」研究が示すように、「自分の一票が差を生む」という実感(内的有効性感覚)が低いほど投票率は低下します。日本財団「18歳意識調査」(2024年)でも、日本の若者がこの感覚において国際比較で低水準にある傾向は継続しています。
データ6 若者の経済不安・将来不安(2024-2025年最新調査)
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2024年)および日本財団「18歳意識調査」(2024年)を総合すると、20代の「生活が苦しい・やや苦しい」と感じる割合は2019年比で約10ポイント上昇し、物価高・実質賃金の低下が若者世代の経済感覚に直接的な影響を与えていると読めます。
内閣府「若者の意識に関する調査」(2024年)では、「将来の日本の社会・経済に不安を感じる」と回答した15-39歳の割合は71.2%に達しています。また気候変動については「クライメート・アンクシエティ(気候不安)」という概念が精神医学・社会心理学で定着しつつあります。ヒ(2021)の研究では、調査対象の若者の59%が気候変動について「非常に心配している」と回答しており、日本でも環境省の調査(2024年)が同様の傾向を確認しています。
以上のデータを総合すると、「若者は政治に無関心」という単純な命題は支持しにくいという見方があります。投票率の低下は事実ですが、関心・有効性感覚・参加形態はより複雑な様相を示しています。
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データ7 ジェンダー別20代投票率の推移
「女性は政治に関心が低い」という通説は、実際のデータと照合すると単純ではないことがわかります。総務省「年代別・性別投票率」によれば、1986年衆院選では20代女性(約61%)が20代男性(約58%)を上回っていました。2000年代以降は両者ともに低下傾向をたどり、2024年衆院選では男女ともに34%前後で拮抗(1988)は、政治参加における社会経済的地位の影響を分析し、女性の参加形態が職業・教育水準の変化とともに変容してきたと論じています。また30代女性については、育児期と重なることで「時間資源」の制約が参加率を下押しするという仮説が研究者から提示さ(1995)の「市民的自発性モデル」では時間・カネ・スキルの3資源が政治参加の規定要因とされています。
データ8 地域別の若者参加率
都道府県別の20代投票率には顕著な差が存在します。総務省の地域別データによれば、過去の衆院選において島根・鳥取・山形といった地方農村部では20代の投票率が全国平均を上回る傾向があり、対照的に東京・大阪・神奈川等の大都市圏では下回る傾向が指摘されています。この差の背景として、地方では「地域コミュニティとの紐帯が強く、投票が社会規範として機能する」という文化的要因を挙げる研究者もいます(クインテリエ2007)。一方で、地方の若者が「地域おこし協力隊」「集落支援員」等の公的プログラムを通じて政策立案プロセスに接触する機会が増えており、農林水産省データでは協力隊員数が2009年の89人から2023年の約6,400人へと70倍以上に拡大しています。都市部の若者と地方の若者では、「政治的有効性感覚」の形成過程が異なるという仮説が成り立ちます。
データ9 学歴別の政治関心度と主権者教育
日本選挙学会の研究(西澤2004)は、高等教育歴が政治参加の正の規定要因であることを量的分析で示しています。大卒者の20代では政治関心度が高卒者より平均10〜15ポイント高い傾向が複数の調査で観察されてきました。この差の説明として「政治社会化」の理論が参照されます。大学教育は政治的情報の解読能力(メディアリテラシー)と社会ネットワークへのアクセスを高めることで、政治参加コストを下げるという経路が想定されています。2016年の選挙権年齢引き下げ(18歳)以降、文部科学省の主導で高校「公共」等における主権者教育が強化さ(2018)編著『熟議民主主義の挑戦』が指摘するように、体験型学習の時間は国際比較でなお低水準にとどまっています。
データ10 国際比較――なぜ日本の若者投票率は低いのか
International IDEA(民主主義・選挙支援国際研究所)の投票率データベースによれば、直近の国政選挙における20代の投票率(推計)はスウェーデン約82%、台湾約75%(2024年総統選)、韓国約58%(2024年総選)、英国約53%(2024年総選)、米国約50%(2020年大統領選)に対し、日本は約34%(2024年衆院選)と大きく(2014)は「New Voice, Less Equal」において、若者の政治参加格差が国によって大きく異なり、主権者教育・政党の若者向け戦略・制度アクセスの3要因が規定的であると論じています。韓国では2008年の牛肉輸入反対蝋燭デモ・2016年の朴槿恵退陣運動が若者の政治的主体性を高め、台湾では2014年ひまわり学生運動・2024年青鳥運動が制度政治と連動する形で展開しました。これらは「非制度的参加から制度的参加へ」の接続が一定程度機能した事例として研究者に参照されています(ノリス2002)。
なぜスウェーデンの20代投票率は80%を超えるのか
これらをそのまま日本に移植することは難しい側面がありますが、体験型主権者教育の拡充・投票所アクセス改善・政治を日常語として語れる文化醸成は、制度設計の視点から議論が可能な論点です。
国際比較が示す4つの論点
以上の国際比較データから、構造的な処方箋として研究者が提示する論点を整理します。これらは特定の政党や政治的立場ではなく、制度設計の観点からの議論です。
- 主権者教育の質的拡充 ― 現行の「公共」等の時間数・体験型学習の比重を国際水準に近づけること。模擬選挙・議員との対話・地域課題ディスカッションなどの体験型プログラムを増やすことが有効とされています(田中2018、スロアム2014)。
- 投票所アクセスの改善 ― 期日前投票の更なる拡充・商業施設への投票所設置・大学キャンパス内投票所の増設など、「参加コストの低減」(ヴァーバら1995)につながる制度変更の議論が複数の研究者から提案されています。
- 政治を語る文化の醸成 ― 家庭・職場・学校での政治的対話を促す環境整備。日本では「政治の話はタブー」という規範が若者の政治的社会化を阻む要因のひとつとして指摘されることがあります(蒲島1988)。
- 若者の政策立案参加機会の拡大 ― パブリックコメントの若者向け周知・ユース議会・若者政策審議会への参加など、「自分が政治を動かせる」という内的有効性感覚(ファルク&フォンフェルト2006)を育む仕組みの拡充が論点として挙げられています。
- 投票率の低下(1967年66%→2024年34%)は事実ですが、政治関心度・参加形態は別のデータを示しています
- 政治的有効性感覚(「自分が変えられる」感覚)の低さが非制度的参加への移行を促すという解釈もあります(ノリス2002)
- 若者の孤立感上昇は社会参加の前提となる「つながり」に影響する可能性があります(パトナム2000)
第10章 母から娘へ 30-50代女性が架橋できること
現在の30-50代(2026年時点で1976-1996年生まれ)は、男女雇用機会均等法施行(1985年)・バブル崩壊(1991年)・阪神大震災(1995年)・NPO法制定(1998年)・リーマンショック(2008年)・東日本大震災(2011年)・コロナ禍(2020年)を連続して経験してきた世代です。
この世代のミッドライフ期の心理についてはミッドライフクライシスの正体 40代女性の心理で、学び直しの機会についてはAI時代の学び直しガイドで扱っています。
マンハイム(1928)は、異なる世代が対話するためには「世代経験の差」を自覚することが出発点だと論じたとさ(2017)は、社会運動に参加したことのない親世代が子世代の参加を理解しにくいのは、共通の「言語」がないからだという見方を示しています。
では、30-50代の女性は若い世代との架橋においてどのような役割を果たせるでしょうか。ひとつの示唆は「正解を教えようとしない」ことです。「投票に行きなさい」ではなく、「あなたはどんな社会に暮らしたいか」という問いを共有することが、世代間対話の入り口になるという見方があります。
自分が経験してきた時代の文脈を、物語として次世代に手渡すこと。それは「正しい政治参加」を教えることとは異なりますが、マンハイムが描いた「世代の継承」の一形態と言えるかもしれません。
2024-2025年 娘が今直面している問題
2026年時点で10代後半〜20代前半の「娘の世代」が直面している不安は、30-50代の親世代が若かった頃のそれとは構造的に異なります。5つの軸で整理します。
親世代として何ができるか:「問いを共有する」という架橋
<(2017)の整理を応用すれば、「正解を教えようとする親」と「問いを持て余している子ども」の間には、共通の言語が存在しない場合があります。「選挙に行きなさい」「ちゃんと働きなさい」という言葉が空回りするのは、その言葉が生まれた文脈(高度経済成長期以降の社会規範)が娘の世代には存在しないからでもあります。
代わりに有効なのは、「あなたはどんな不安を持っているか」と先に聞くことかもしれません。経済不安・気候不安・キャリア不安を「そんなことを心配しなくていい」と打ち消すのではなく、「私の世代にもそれに似た不安があった」と相対化して語るこ(1928)が描いた「世代経験の対話的継承」に近い営みです。
投票やNPO参加を「推奨」することよりも、「なぜあなたはその問題が気になるの?」という問いの共有が、世代を越えたつながりの出発点になりうるという考え方もあります。
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本記事は政治的立場を示すものではなく、社会参加の歴史的考察として書かれています。政治的な判断はあくまでも読者自身が行うものです。
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- 30-50代女性は複数の社会変動を連続して経験した「多層的世代経験」を持つとされています(マンハイム1928)
- 「正解を教える」より「問いを共有する」姿勢が、世代間対話の架橋になるという見方があります
<(2017)は、共通の「言語」の欠如が世代間の断絶を生むと指摘しています
終章 参加は消えたのではなく、形が変わった
- 60年間の参加形態の変遷をまとめる4象限マトリクス
- 「参加の形が変わった」という本記事の結論
- 30-50代が娘世代と「問いを共有する」という実践的提案
1960年代のデモ・1970-80年代の消費文化・1995年のボランティア・1998年のNPO法制化・2015年のSEALDs・2020年代の推し活的政治参加。これらはすべて、それぞれの時代の若者が「自分の手が届く場所から社会に関わろうとした」試みとして読むこともできます。
投票率という単一の指標で「若者の政治離れ」を断じることには、慎重でいたほうがよいという見方があります。参加の形は時代とともに変化し、制度の内外を行き来しながら、社会関係資本の網の目を更新し続けているとも言えます。
この記事で取り上げた関連テーマ:
- Z世代が宗教を求める理由 価値観と組織帰属
- ミッドライフクライシスの正体 40代女性の心理
- 日本ドラマの変遷 1960年代から現代まで
- シャーデンフロイデ 孤立感と感情の脳科学
- 推し活 なぜ人気?熱狂を生む心理と社会的背景
参考文献
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- ① 1960年代から2024年まで、若者の参加形態は消えたのではなく多様化・個人化してきたとまとめられます
- ② 各時代の参加は「その時代の社会構造への応答」として理解することが重要です
- ③ 世代間の対話と「問いを共有する」姿勢が、民主主義を次世代につなぐ鍵として示されています

