つらい経験に意味を見つけられないとき|意味づけを急がないための研究整理
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先に伝えたいこと
- つらい経験から得たものを、今すぐ答えにする必要はありません。
- 研究が調べているのは、心理尺度で測った変化や心の状態との関連です。あなたの経験に意味があるかどうかを判定するものではありません。
- 成長を感じることと、つらさが残ることは両立します。困っていることへの支えを求めてかまいません。
「この経験にはきっと意味があるよ」。励ましのつもりでかけられた言葉でも、今の自分には重く感じることがあります。
何かを得たと思えない。前向きな言葉にまとめられない。そんなときは、意味を見つけることを、回復の宿題にしなくてもよいと、この記事では考えます。
その考えと研究の結果を混同しないように、心的外傷後の成長、死別後の意味づけ、反芻について、5本の論文の要旨を整理しました。研究から言えることと、日常で選べる工夫を分けて紹介します。
研究は「経験の意味」を判定していない
2019年のマンゲルスドルフらのメタ分析は、122件の縦断研究、計98,436人のデータをまとめています。出来事のあとで「成長した」と振り返るだけでなく、複数の時点で測った心理的な変化を調べた研究です。
自尊心・良好な人間関係・熟達感には上向きの傾向がありました。一方、人生の意味やスピリチュアリティの領域では、測定上の成長は確認されませんでした。悪い出来事のほうが良い出来事より成長を促す、という一般的な裏づけも得られていません。
ただし、比較対象の集団を置いた研究では、多くの場合、出来事を経験した集団との有意差がありませんでした。変化をすべて出来事の効果とすることはできません。
この結果は、「つらい経験に意味がない」という結論ではありません。心理尺度の平均的な変化と、一人ひとりが経験に感じる意味や価値は、同じ問いではないからです。論文中の「genuine growth」は前後の測定で捉える変化を指し、人の気持ちを「本物・偽物」に分ける言葉としては使いません。[研究1]
「成長したと感じること」と「つらさが減ること」は別に確かめる
フレイジャーらの2009年の研究では、2か月の間につらい出来事を報告した大学生122人について、出来事の前後に測った変化と、あとから感じた成長を比べました。
この研究では、心的外傷後成長尺度(PTGI)による自己評価は、前後の測定で捉えた変化とおおむね一致しませんでした。感じられた成長は苦痛の増加と、前後に測った成長は苦痛の減少と関連していました。
これは尺度の測り方と関連についての結果です。「成長を感じると苦しくなる」という因果関係や、「あなたは強くなった」という声かけの効果を調べたものではありません。対象や観察期間も限られ、すべての人にそのまま当てはめることはできません。[研究2]
自分では得たものがあると感じていても、眠れない、疲れている、人と会うのがつらい、といった困りごとは別に扱ってよいはずです。成長したと説明するために、困りごとを小さく見せる必要はありません。
意味づけには種類がある。でも、回復の順番は決められない
デイヴィスらの1998年の死別研究は、「起きたことを理解しようとすること」と「経験から得たものを見いだすこと」を、異なる意味づけとして扱いました。
前者と苦痛の少なさとの関連は死別後1年目に見られ、後者と適応との関連は13か月・18か月の面接時点で最も強く見られました。
ここでの13か月や18か月は、研究で面接した時点です。「1年を過ぎたら意味を探すべき」「理解してから恩恵を探すと回復する」という期限や手順を示してはいません。どんな言葉を、いつかけるとよいかを試した研究でもありません。[研究3]
今は考えたくない日、少し話したい日、何かを見つけたように感じる日があっても、研究の時刻表に合わせる必要はありません。
考え続けてつらくなるときは、支えを減らさない
同じ苦しさや原因について繰り返し考えることは、心理学で「反芻」と呼ばれます。2008年のノーレン・ホークセマらの総説は、反芻が抑うつや否定的な考えを強め、問題解決や行動を妨げることについての知見を整理しています。周囲からの支えへの悪影響も論じています。
ただし、これは「つらい話をすると人が離れる」「同じ話は一人にだけするべき」という助言の根拠にはなりません。総説は、反芻と役立つ内省との区別も扱っていますが、「考えたあと行動できたか」だけで自分を分類することは避けたいところです。[研究4]
考えるほど自責や苦しさが増し、生活に支障が出ているなら、その状態を相談の話題にできます。話す相手を一人に限定する必要はありません。身近な人、公的な相談先、医療機関など、自分に合う支えを選べます。
落ち着き方にも、一つの正解はない
ボナーノの2004年の論考は、大きく生活機能が落ちたあとに戻っていく「回復」と、乱れが比較的小さく一時的な経過である「レジリエンス」を区別しています。喪失後の経過には複数の道筋がある、という整理です。
レジリエンスは「苦しんで成長すること」と同義ではありません。強い苦痛がない人を冷たいと決めたり、長くつらい人を弱いと評価したりするための区分でもありません。[研究5]
今の負担を少し軽くするための選択肢
ここからは記事としての提案です。上の研究で効果が確かめられた治療法や、必ず取り組む課題ではありません。負担になるものは行わず、選べそうなものがあれば参考にしてください。
- 答えを保留する。「今は分からない」で区切り、意味を見つける期限を設けない。
- 今、困っていることを短く伝える。出来事を詳しく振り返らなくても、「眠れない」「今日の家事を手伝ってほしい」から話してよい。
- 声かけの希望を伝える。たとえば「意味の話より、今はただ聞いてほしい」。言いにくければ、無理に説明しなくてもよい。
- 相談先を選び直す。一度の相談が合わなくても、別の人や窓口を使ってよい。支えを一人に絞らない。
生活に支障があるときの相談先
眠れない、食事をとれない、仕事や家事が難しいなどの困りごとが続くときは、意味が見つかるのを待たずに、医療機関や相談窓口へつなげてください。自分を傷つけそうなときは一人で抱えず、すぐに身近な人や緊急の支援を頼ってください。
厚生労働省「まもろうよ こころ」には、電話やSNSの相談先がまとまっています。働く人やその家族は「こころの耳」も利用先を探す手がかりになります。無料で相談できる窓口もありますが、通話料・受付時間・利用対象は各窓口で確認してください。
よくある質問
つらい経験に意味はない、ということですか
いいえ。紹介した研究は、心理尺度で測った変化や心の状態との関連を調べたもので、個人の経験に意味があるかどうかを判定していません。意味を感じる人の経験も、今は見いだせない人の気持ちも、この結果だけで否定できません。
「あなたは強くなった」と言われるのがつらいです
その言葉を前向きに受け止める必要はありません。「今は強くなったかどうかより、つらさを聞いてほしい」と伝えるのも一つの選択肢です。これは記事としての提案で、紹介した研究がその声かけの効果を検証したわけではありません。
いま渦中にいます。何から手をつければいいですか
意味の説明を急がず、今の困りごとを一つ伝える方法があります。眠れない、食事がとれない、生活が回らないなどの状態が続くなら、身近な人や相談窓口、医療機関に助けを求めてください。出来事を細かく話すことや、相談相手を一人に限定することは必要ありません。
意味が見つかった気がするのは、思い込みですか
この研究だけで思い込みと決めることはできません。あとから感じる成長と、前後の測定で捉える変化が一致しなかったという結果は、その感覚の価値を否定するものではありません。
どのくらいで落ち着きますか
この記事の研究から、個人の回復期限は決められません。13か月・18か月という数字は研究の面接時点で、そこで落ち着くという意味ではありません。相談は、その時期まで待たずに利用できます。
出典と確認した範囲
2026年9月9日に、以下の5本の論文の書誌情報と要旨をPubMedで再確認しました。各論文の本文全体や、関連分野のすべての研究を調べたレビューではありません。意味づけを促す治療の効果を評価した記事でもなく、診断や治療の判断には使えません。公的相談窓口2サイトの掲載も同日に確認しました。
- Mangelsdorf, J., Eid, M., & Luhmann, M. (2019). Does growth require suffering? A systematic review and meta-analysis on genuine posttraumatic and postecstatic growth. Psychological Bulletin, 145(3), 302-338.(PubMed)
- Frazier, P., Tennen, H., Gavian, M., Park, C., Tomich, P., & Tashiro, T. (2009). Does self-reported posttraumatic growth reflect genuine positive change? Psychological Science, 20(7), 912-919.(PubMed)
- Davis, C. G., Nolen-Hoeksema, S., & Larson, J. (1998). Making sense of loss and benefiting from the experience: Two construals of meaning. Journal of Personality and Social Psychology, 75(2), 561-574.(PubMed)
- Nolen-Hoeksema, S., Wisco, B. E., & Lyubomirsky, S. (2008). Rethinking Rumination. Perspectives on Psychological Science, 3(5), 400-424.(PubMed)
- Bonanno, G. A. (2004). Loss, trauma, and human resilience: Have we underestimated the human capacity to thrive after extremely aversive events? American Psychologist, 59(1), 20-28.(PubMed)
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」(公式サイト)
- 厚生労働省「こころの耳」働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(公式サイト)
2026年9月9日改訂:研究の関連と因果関係を区別し、回復の順番を示す表現、相談相手を一人に限定する提案、相談料金の一律な案内を修正しました。
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