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早わかり——怒りとのつきあい方

目指すのは「怒らない人になること」ではなく、怒りを選べるようになることです。精神科医M・スコット・ペックは、この複雑な世界でうまく機能するには、怒りを表す能力と表さない能力の両方が必要だと書いています。一方、実務家の嶋津良智は、怒りの約8割は自己満足のために出てしまう「不要な怒り」だと指摘します。つまり手当てすべきは8割の不要な怒りで、残り2割の必要な怒りは、むしろきちんと伝えられるようになるべきもの。この記事では、その見分け方と扱い方を扱います。

怒っている自分が、いちばん嫌になる

朝、家族の脱ぎっぱなしの靴下を拾いながら、自分でも驚くほど強い言葉が出た。

言い終わった瞬間には、もう後悔しています。こんなことで怒る人間ではなかったはずなのに。夜、みんなが寝静まってから、その場面を何度も再生して、今度は自分に腹が立ってくる。

40代になって、怒りの扱いが難しくなったと感じる方は多いと思います。若い頃は、怒っても引きずりませんでした。今は、爆発したあとの後味が長く残る。あるいは逆に、怒れないまま飲み込んで、体のどこかが重くなる。

この記事は、「怒らない自分になりましょう」という話ではありません。結論から言えば、怒らない人が正解ではないからです。目指すのは、怒りを選べるようになること。まずは誤解をひとつ解くところから始めます。

誤解①「怒らない人」が成熟した大人、ではない

精神科医のM・スコット・ベックは、名著『愛すること、生きること』(全訳『愛と心理療法』)の中で、怒りとその表現について一章を割いています。そこで彼が書いているのは、たいていの人の予想とは逆のことです。

複雑なこの世界でうまく機能するには、怒りを表す能力と、表さない能力の、両方が必要である——同書68頁でペックはそう述べます。しかも、いろいろなやり方で怒りを表す能力もなくてはならない、と続けます。

つまり成熟とは、怒りを消すことではなく、怒りの「出し方の引き出し」が増えることです。強く言う、静かに言う、その場では言わずに後で言う、言わずに距離を取る。どれか一つしか持っていない人は、状況に合わせられません。いつも爆発する人も、いつも飲み込む人も、実は同じ問題を抱えています。引き出しが一つしかないのです。

ペックはもう一歩踏み込んで、家族の精神衛生のためには、自分の要求や怒りや期待を表現することが、自己犠牲とまったく同じくらい必要だと書いています(同書119頁)。ここは、家庭の中で怒りを飲み込み続けている方にこそ届いてほしい部分です。飲み込むことは、優しさではなく、家族の健康を損なうこともある。

誤解②「怒り」はぜんぶ我慢すべきもの、ではない

とはいえ、思いつくままに怒っていいわけでもありません。ここで役に立つのが、もう一冊の視点です。

嶋津良智『マンガでよくわかる怒らない技術』は、タイトルこそ「怒らない」ですが、著者自身が同書9頁で、「怒らない」というと語弊がある、正しくは「不要な怒りをなくす」のだ、と断っています。

そして同書10頁には、こうあります。怒りの約8割は、自己満足のために表出している不要な怒りである、と。

この数字は、私にはとても実感に合いました。振り返ってみると、私の怒りのほとんどは、相手を変えるためでも、何かを守るためでもなく、自分の中に溜まった圧を抜くために出ていました。靴下に怒ったあの朝も、本当は靴下の問題ではなかった。

整理すると、こうなります。

  • 2割の必要な怒り——大切なものが侵されたときのサイン。伝えるべき怒り。
  • 8割の不要な怒り——自分の圧を抜くために出ている怒り。手当てすべき怒り。

やることは、全部を我慢することではありません。8割を減らして、2割をちゃんと届くように伝える。これが方針です。

「必要な怒り」と「不要な怒り」は、どう見分けるか

では、目の前の怒りがどちらなのか。私が使っている見分け方は3つです。

必要な怒り(2割) 不要な怒り(8割)
向き先 具体的な行為に向いている 相手の人格に向いている
目的 変えたいことがある 分からせたい・懲らしめたい
時間 明日も同じ理由で怒っている 数時間後には理由を思い出せない

いちばん実用的なのは3つ目の「時間」です。怒りが湧いたら、その場で判断せず、一晩置いてみる。翌朝も同じ理由で怒っていれば、それは伝えるべき2割です。思い出せない程度なら、8割のほうでした。

この一晩の猶予は、我慢とは違います。我慢は飲み込むことですが、これは仕分けのための保留です。判断を止めているだけで、感情は否定していません。

なぜ40代で、怒りが扱いにくくなるのか

そもそも、なぜこの年代で怒りが増えたように感じるのでしょうか。理由は年齢そのものではなく、置かれている状況にあります。

引き受けているものが、いちばん多い時期だから

仕事の責任、子どもの生活、親の様子、家の運営。40代は、判断と段取りを一日中させられる時期です。怒りは、容量が限界に近いときに出やすくなります。同じ靴下でも、余裕のある日には拾えて、限界の日には拾えない。怒りっぽさは性格の変化ではなく、多くの場合、容量の問題です。

我慢が「積立」になっているから

20代の我慢はその日で終わりましたが、40代の我慢は積み上がっています。何年も飲み込んできた小さな不満は、消えたのではなく、どこかに預けられている。だから、たった一言で不釣り合いなほど強い怒りが出ることがあります。今日の出来事に、過去数年分の利息がついている状態です。

怒ってはいけない立場が増えるから

母として、嫁として、職場の中堅として。怒りを出しにくい役割が同時に重なるのが40代です。出口をふさがれた怒りは、いちばん弱い場所——たいてい家族か、自分自身——に向かいます。

怒りを扱う、5つの実際的な方法

ここからは手当てです。8割を減らし、2割を届けるための具体策を挙げます。

1. アンガーログをつける

嶋津の本で紹介されている方法です(同書12頁)。イライラした出来事を、その場で短くメモしていきます。時刻・場面・強さ(10段階)だけで十分です。

これを一週間続けると、たいていの人が同じことに気づきます。怒りは人ではなく、時間帯と状況に紐づいているということです。夕方6時台、空腹、寝不足の翌日。パターンが見えると、相手を変える話ではなく、段取りを変える話になります。

2. 「人の責任にすること」をやめる実験を1日だけ

同じく嶋津が挙げているのが、他者に責任を求めるのをやめること。ただし、これを一生続けようとすると挫折します。1日だけの実験にしてください。

その日は、何が起きても「相手のせい」という文を心の中で作らない。代わりに「私はどうしたいか」だけを考える。一日やってみると、怒りの多くが「誰のせいか」を決める作業から生まれていたことが分かります。

3. 圧を抜く先を、人以外に用意する

8割の怒りは圧抜きが目的でした。ならば、抜く先を人以外にすればいい。速く歩く、風呂で息を長く吐く、紙に書いて捨てる、掃除機をかける。体を使う方法がいちばん効きます。怒りは体に溜まった興奮でもあるので、体から抜くのが早道です。

4. 2割の怒りは、「行為」だけを名指しして伝える

伝えるべき怒りが残ったら、伝え方には型があります。人格ではなく行為を名指しすること。

  • ×「あなたはいつも私を軽く見ている」(人格・いつも)
  • ○「昨日、予定を私に言わずに決められたのが嫌だった」(行為・一件)

嶋津は、怒りで人を動かそうとしても短期的にしか効かず、長続きしないと書いています(同書31頁)。怒鳴って通した要求は、恐れで通っただけなので、恐れが薄れれば元に戻ります。行為を名指しして静かに伝えるほうが、遠回りに見えて確実です。

5. 大事な相手ほど、その場で言わない

ペックは、批判や対決の多くが怒りや困惑から衝動的になされ、結果として物事をますます混乱させると指摘し、本当に愛している人に対しては、批判や対決を簡単にはできないと書いています(同書160頁)。

これは「言うな」という意味ではありません。大切な相手に対しては、言う内容も、時も、言い方も選ぶ必要がある、ということです。どうでもいい相手にはいくらでも言えるのに、大事な相手には慎重になる——その慎重さは、怖がりではなく、愛情の形です。

「怒れない」というもう一つの困りごと

ここまでは怒りが出てしまう人の話でしたが、逆の方もいます。

腹が立っているはずなのに、その場では笑ってしまう。帰り道で悔しさに気づく。相手に伝えるという選択肢が、そもそも頭に浮かばない。

この場合、問題は怒りの量ではなく、出し方の引き出しがゼロであることです。ペックの言う「表す能力」が育っていない状態で、たいていは育った家庭で怒りが安全に扱われていなかった経験と結びついています。

始め方は、いきなり本丸ではなく、いちばん安全な場面からです。店員さんに「すみません、これ違うものが届いていて」と伝える。家族に「その言い方、ちょっと嫌だった」と一言だけ言う。小さく成功する経験を積むことが、引き出しを増やす唯一の方法です。

そして、怒りを飲み込み続けることが優しさだという考えは、いったん脇に置いてください。ペックが書いていたように、自分の怒りや要求を表現することは、自己犠牲と同じくらい、家族の健康のために必要なものです。

怒りの下には、たいてい別の感情がある

最後に、いちばん大事なことを書きます。

怒りは、単独で湧いてくることが少ない感情です。多くの場合、その下に別の感情が隠れています。心配、寂しさ、不安、疲れ、そして「大事にされていない」という悲しさ。

子どもの帰りが遅くて怒鳴るとき、下にあるのは心配です。夫の何気ない一言に怒るとき、下にあるのは「私の一日は見えていないんだな」という寂しさかもしれません。

怒りだけを伝えると、相手には攻撃としてしか届きません。下にあるほうを伝えると、届き方が変わります。「遅い!」ではなく「連絡がないと心配になる」。怒りは、伝える前にひっくり返す。これが、この記事でいちばんお伝えしたい技術です。

そして、ひっくり返してみて何も出てこない日もあります。その日はたぶん、単に疲れています。疲れているときの怒りは、伝える相手を探すのではなく、休む合図として受け取ってください。

「怒り」と一言でくくらない——感情に解像度を持たせる

ここまで「怒り」と呼んできましたが、実際には中身がかなり違うものが同じ名前で呼ばれています。

認知行動療法の専門家・堀越勝は『感情の「みかた」』で、感情への対処を「見方・診方・味方」という三つの段階で説明しています。最初の段階は、感情を見ること。つまり名前をつけることです。

試しに、怒りを分けてみます。

  • イラッ——短くて浅い。たいてい容量不足のサイン。
  • 腹立たしい——特定の行為に向いている。伝える価値がある。
  • 憤り——理不尽さへの怒り。正当なことが多い。
  • やるせない——怒る相手がいない怒り。悲しみに近い。
  • 恨み——時間が経っても消えない怒り。単独では扱いにくい。

同じ「ムカつく」でも、イラッなのか憤りなのかで、必要な手当てはまったく違います。イラッなら休むこと、腹立たしいなら伝えること、やるせないなら誰かに聞いてもらうこと。名前が粗いままだと、手当ても粗くなります。

ノートに書くときも「ムカついた」で止めず、この五つのどれに近いかまで書いてみてください。それだけで、次に何をすればいいかが半分決まります。

ちなみに、五つのうち「憤り」は減らさなくていい怒りです。理不尽なことに腹が立つのは健全な反応で、それが起きなくなったとしたら、それは成熟ではなく麻痺かもしれません。我慢が美徳になるのは、我慢しないという選択肢を持っている人だけです。

場面別|怒りが起きやすい4つの関係と、最初の一手

怒りは相手によって形が変わります。40代でとくに多い四つを挙げます。

夫・パートナーへの怒り

特徴は、量ではなく「見えていない」ことへの怒りだという点です。手伝わないことそのものより、こちらが一日どれだけ回しているかが視界に入っていないことに腹が立つ。だから「手伝って」と言って手伝ってもらっても、なぜか満たされません。求めていたのは労働力ではなく、認識だったからです。

最初の一手は、要求ではなく報告から始めること。「今日はこれとこれをやった」と、責める色をつけずに事実だけ伝えてみる。相手が見えていないなら、見せるところからしか始まりません。それでも変わらないなら、そのときは要求として伝えます。順番を逆にすると、たいてい喧嘩になります。

子どもへの怒り

子どもへの怒りには、ほぼ必ず心配が下に入っています。そして厄介なことに、こちらの余裕のなさが最も出やすい相手でもあります。同じ場面でも、余裕のある日は笑って済み、限界の日は爆発する——その差は子どもの行動ではなく、こちらの容量です。

最初の一手は、怒る前に「これは今日の私の容量の問題か」と一度だけ自問すること。容量の問題だと分かれば、叱る内容が変わります。それでも言うべきことは言っていい。ただ、後から「言い方はごめん、でも中身は本当」と分けて伝えられると、子どもにも残るものが変わります。

親・義母への怒り

ここでの怒りは、たいてい昔からの続きです。今日の一言が引き金になっているだけで、火薬は何十年も前から置かれている。だから、その場で解決しようとすると、相手も何のことか分からず、こちらだけが消耗します。

最初の一手は、その場での決着をあきらめること。代わりに、会う時間や頻度という「条件」のほうを調整します。長い歴史のある関係で変えられるのは、たいてい相手ではなく距離のほうです。

職場の特定の人への怒り

40代は、理不尽を引き受ける側に回りやすい年代です。しかも立場上、その場で怒るという選択肢がありません。出せない怒りは持ち帰られ、家族に向かうか、自分の体に向かいます。

最初の一手は、家に持ち帰らないための「区切り」を作ること。帰り道に一駅歩く、車の中で音楽を一曲だけ聴いてから家に入る、着替えを済ませてから家族と話す。物理的な区切りは、感情の区切りとして意外なほど機能します。

怒りは、気づく前に体に出ている

怒りに気づくのが遅い人ほど、爆発しやすくなります。気づいたときにはもう10のうち9まで来ているからです。

ここで役に立つのが、感情より先に出る体のサインを知っておくことです。人によって違いますが、よくあるのはこのあたりです。

  • 奥歯を噛みしめている
  • 肩が上がっている、首の後ろが硬い
  • 呼吸が浅く、速くなっている
  • 手のひらや、みぞおちのあたりが熱い
  • 相手の言葉を最後まで聞かずに、返事を用意し始めている

自分のサインを一つ覚えておくと、怒りが3か4のうちに気づけます。3で気づいた怒りは選べますが、9で気づいた怒りはもう選べません。アンガーログをつけるときに、そのときの体の状態も一言添えておくと、自分のサインが見つかりやすくなります。

そして、気づいたときにいちばん早く効くのは、息を長く吐くことです。吸うのではなく、吐くほうを長くする。体の興奮は呼吸から下げるのが最短で、これは道具も場所もいりません。

ぶつけてしまったあとの、修復のしかた

技術を知っていても、爆発する日はあります。大事なのは、そのあとです。

やってしまったあと、私たちは二つのうちどちらかに行きがちです。過剰に謝って自分を責めるか、なかったことにして普段どおり振る舞うか。どちらも、あまりうまくいきません。前者は相手に気を遣わせ、後者は相手の中に小さな不信を残します。

間にある道が、修復です。手順は三つだけです。

1. 言い方だけを、具体的に謝る

「ごめんなさい、全部私が悪かった」と丸ごと謝ると、伝えたかった中身まで取り下げることになります。そうではなく、「さっきの大きい声、怖かったよね。あれはごめん」と、行為を限定して謝ります。謝る範囲を絞るほど、謝罪は誠実に届きます。

2. 中身は取り下げない

言い方を謝ったうえで、「でも、伝えたかったことは本当」と一言添えます。ここを飛ばすと、相手には「怒られ損」だけが残り、次に同じことが起きます。言い方と中身を分ける——これは大人同士でも、子ども相手でも同じです。

3. 自分を責める時間を、切り上げる

夜、爆発した場面を何度も再生してしまうことがあります。反省は一度でいい。二度目からは反芻で、反芻は次の爆発の燃料になります。「明日、この一言だけ言う」と決めたら、そこで終わりにしてください。

怒ってしまう自分を、完全になくすことはできません。できるのは、爆発を小さくすることと、そのあとの戻り方を持っておくことです。戻り方を知っている人は、爆発を過剰に怖がらなくなります。そして怖がらなくなると、不思議なことに、爆発そのものが減っていきます。

やらないほうがいい、怒りの扱い方

逆効果になりやすい方法も挙げておきます。どれも一度はやってしまうものです。

1. 感情が高いままメッセージを送る

文字は、話し言葉より強く残ります。その場では言い切れて満足しますが、相手の手元には証拠として残り続けます。しかも表情や声の調子という緩衝材がないので、こちらの想定より二段階ほど強く届きます。書くのは構いません。書いて、送らずに一晩置く。翌朝読み返して、まだ送りたければ短くしてから送ります。

2. 第三者に言い続ける

誰かに聞いてもらうことは有効です。ただし、同じ話を何度も繰り返す段階に入ったら、それは整理ではなく反芻に変わっています。反芻は怒りを薄めるどころか、記憶を鮮明にして強化します。三回目からは、聞いてもらう相手を変えるより、書いて閉じるほうが効きます。

3. 子どもに、大人への愚痴をこぼす

いちばん近くにいて、いちばん逃げられない相手です。子どもは親の愚痴を「自分が何とかしなければ」と受け取りやすく、その役割は年齢に見合いません。愚痴の宛先は、同世代の友人か、専門家に。ここは意識的に守る価値のある線です。

一日の終わりに、怒りを持ち越さないために

最後に、小さな習慣をひとつ。

寝る前に、その日イラッとしたことを一つだけ思い出して、こう自問します。「これは、明日の私にも必要な怒りか」

必要なら、翌日に伝える言葉を一文だけ用意して、そこで終わりにします。必要でないなら、「今日はここまで」と口に出して、布団に入る。

この作業の目的は、怒りをなくすことではありません。怒りに、終わる時間を与えることです。終わりがない怒りは、寝ている間も働き続けて、翌朝の容量を先に食べてしまいます。容量が減った状態で迎える朝は、また怒りやすい朝になります。この循環をどこかで切るために、夜の一問があります。

まとめ|1週間で試す順番

やることを並べたので、順番に整理しておきます。一週間で試せる量です。

  • 1〜2日目:記録だけ——アンガーログをつけます。時刻・場面・強さ(10段階)・体のサイン。変えようとせず、見るだけ。
  • 3日目:名前をつける——記録した怒りに、イラッ/腹立たしい/憤り/やるせない/恨みのどれかを書き足します。
  • 4日目:一晩置く練習——その日の怒りを一つ選び、翌朝も残っているか確かめます。2割か8割かの仕分けです。
  • 5日目:体から抜く——8割だったものは、伝えずに体で抜きます。速く歩く、長く息を吐く。
  • 6日目:一件だけ伝える——2割だったものを、行為だけ名指しして、静かに一件だけ伝えます。
  • 7日目:夜の一問——「これは明日の私にも必要な怒りか」を寝る前に一度だけ。

全部できなくても構いません。1日目の記録だけでも、怒りは扱いやすくなります。見えていないものは選べませんが、見えたものは選べるようになるからです。

怒りを消す必要はありませんでした。減らすべきは8割の不要な怒りで、2割の必要な怒りは、むしろちゃんと届くように伝えるべきものでした。そして怒りの下には、たいてい心配や寂しさが隠れていました。

怒っている自分を嫌いにならなくて大丈夫です。怒りは、あなたが大切にしているものが、まだそこにあるという証拠でもあります。

それでもおさまらないときは

次のような状態が続くときは、ひとりで抱えず、専門家に相談してください。怒りの技術の問題ではなく、休息や治療が必要な状態のことがあります。

  • 怒りを自分で止められず、物にあたる・人を傷つけることがある
  • 怒ったあとの落ち込みが強く、何日も引きずる
  • 眠れない、食べられない状態が二週間以上続いている
  • 更年期の時期と重なり、体調の変化を伴っている(婦人科での相談も検討してください)

怒りっぽくなった自分を責める必要はありません。怒りは、あなたが壊れた証拠ではなく、何かが限界に近いことを知らせる合図です。合図に気づけたなら、もう半分は進んでいます。

→ ひとつに決める前に比べたい方へ|オンラインカウンセリング比較7選

よくある質問

Q1. 怒らない人になるにはどうすればいいですか

怒らない人を目指す必要はありません。精神科医M・スコット・ペックは、怒りを表す能力と表さない能力の両方が必要だと述べています。目指すのは怒りを消すことではなく、状況に応じて出し方を選べるようになることです。

Q2. 必要な怒りと、不要な怒りはどう見分けますか

いちばん実用的なのは時間で見る方法です。一晩置いて、翌朝も同じ理由で怒っていれば伝えるべき怒り、理由を思い出せない程度なら手当てすべき怒りです。嶋津良智『怒らない技術』は、怒りの約8割は自己満足のために出る不要な怒りだと指摘しています。

Q3. 40代になって怒りっぽくなったのはなぜですか

性格の変化ではなく、多くは容量の問題です。仕事・子ども・親・家の運営を同時に引き受ける時期で、余裕がないときほど怒りは出やすくなります。また、長年の我慢が積み上がっているため、小さな出来事に不釣り合いなほど強い怒りが出ることもあります。

Q4. 怒りをうまく伝えるコツはありますか

人格ではなく行為だけを名指しすることです。「あなたはいつも軽く見ている」ではなく「昨日、予定を私に言わずに決められたのが嫌だった」と、一件に絞って伝えます。怒鳴って通した要求は恐れで通っただけなので、長続きしません。

Q5. 怒りたいのに怒れません。どうすればいいですか

怒りの量ではなく、出し方の引き出しがない状態です。いきなり大事な場面ではなく、安全な場面から始めてください。店員さんに間違いを伝える、家族に「その言い方は少し嫌だった」と一言だけ言う。小さく成功する経験が、引き出しを増やします。

参考・出典

M・スコット・ペック『愛すること、生きること 全訳「愛と心理療法」』(創元社)68頁・119頁・160頁/嶋津良智『マンガでよくわかる怒らない技術』(フォレスト出版)9頁・10頁・12頁・31頁。「必要な怒り」「不要な怒り」の整理と見分け方の3基準は、両書の内容をもとに筆者が再構成したものです。

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グレイス
考察好きなブロガー。日々の心の重荷を、心理・思想・歴史・暮らしの知恵から静かにほどく——そんな長文の読み物を「日常の温もり」で綴っています。