キース『それでもなお、人を愛しなさい』の読みどころ|逆説の10カ条の意味と、マザー・テレサの言葉と言われる理由
本ページはプロモーションを含みます

早わかり
- 『それでもなお、人を愛しなさい』は、逆説の10カ条の一条ごとに一章をあてた本です
- 10カ条は、ケント・M・キースが19歳のときに高校の生徒会リーダー向けに書きました
- マザー・テレサの作ではなく、カルカッタの子どもの家の壁に掲げられていた言葉です
- 壁の言葉の条の数は、著者自身は8つと書き、公式サイトは看板の全文から9つと数えています
- 解説の佐々木常夫氏は、第一条を会社で実践するのは実際的でないと反論しています
- 本文は、評価を他人の問題として切り分けることと、燃え尽きない工夫も説きます
- 40代の職場と家族の読みどころは筆者の置き換えで、本に書かれた例ではありません
『それでもなお、人を愛しなさい』は、報われなくても善いことを続ける理由を説いた本です(p10・p101)。著者のキースは、19歳で書いた逆説の10カ条を、一条ずつ一章を使って掘り下げています(p9・p29〜97)。
本記事では、本に書かれていることと筆者の整理を分けて書きます。筆者の体験を書いた記事ではありません。ページ番号は、早川書房の2010年の新装改訂版のものです。
『それでもなお、人を愛しなさい』はどんな本か
本書は、筋の通らない世の中でも、一人の人間は自分なりの意味を見つけられると説く本です(p22〜23)。中心にあるのは、意味は結果や見返りではなく行いの中にある、という考えです(p23・p101)。
本の基本情報|3部10章、序文と解説つき
本は3部でできていて、10の章はすべて第2部に収められています(p29〜97)。第2部の各章が、10カ条の一条ずつに対応する作りです(p30〜97)。
| 区分 | 中身 | ページ |
|---|---|---|
| 序文 | 『チーズはどこへ消えた?』の著者スペンサー・ジョンソンの文章 | p7〜8 |
| はじめに | 10カ条を書いたいきさつと、広まった経緯 | p9〜15 |
| 第1部 おかしな世界 | 筋の通らない世界を認め、10カ条の一覧で締めくくる | p17〜27 |
| 第2部 逆説の10カ条 | 一条に一章をあてた全10章 | p29〜97 |
| 第3部 逆説的な人生 | 助け方の選び方、評価との向き合い方、燃え尽きない工夫など | p99〜114 |
| 訳者あとがき | 訳者の大内博氏と著者の縁 | p115〜119 |
| 解説 | 東レ経営研究所特別顧問の佐々木常夫氏が 2010年7月29日に語った談話 | p121〜127 |
原書の題は THE PARADOXICAL COMMANDMENTS で、2001年に出ました(扉裏)。訳者は大内博氏で、本記事が使った版の初版発行は2010年8月25日です(奥付)。2002年に早川書房から出た同名の本の新装改訂版で、ソフトカバーになり用語も簡略化されました(p118・巻末の注記)。
19歳の学生が、高校の生徒会リーダーに向けて書いた
逆説の10カ条は、キースがハーバード大学2年の19歳のときに書いた文章です(p9)。高校の生徒会リーダーに向けた小冊子の、一部として収められました(p9)。小冊子の題は『静かなる変革――生徒会におけるダイナミックなリーダーシップ』です(p9)。
小冊子は1968年に、ハーバード大学の学生部から出版されました(p9)。著者の公式サイトによると、英語の題は The Silent Revolution です。出版元は Harvard Student Agencies と記されています。
数年後には、全国高等学校校長会が改訂版を出しました(p9)。60年代後半から70年代前半にかけて、約3万部売れたのではないか、と著者は書いています(p9)。
10カ条を書いた動機は、理想に燃えた高校生が早々にやめていく姿でした(p10)。反応が悪かったり失敗したりすると、若者は活動から離れていきました(p10)。続ける力になるのは他人を本気で思う気持ちだ、とキースは考えます(p10)。
キースは10カ条を、評価されなくても正しいことをやってみないか、という呼びかけとして書きました(p10)。着想の一つは、高校3年の終わりの表彰式で味わった満足です(p11)。
表彰式のために体育館へ入った瞬間、キースは3年間でやったことや学んだことを思い返しました(p11)。満たされて賞はもう要らないと感じ、「私はすでに報われていました」と振り返っています(p11)。
逆説の10カ条の意味|報われない現実を認めてから行う
逆説の10カ条は、10の条がすべて同じ型で書かれています(p26〜27)。前半で行いが報われない現実を認め、後半で行いを勧める型です(p26〜27)。
10の条のテーマと要旨を、扱う章とあわせて表にしました。要旨は筆者の言葉で、本の条文の文言ではありません。
| 条 | テーマ | 要旨(筆者の言葉) | 章と頁 |
|---|---|---|---|
| 第一条 | 人を愛する | 理屈が通じず自分本位な人でも、愛することをやめない | 第1章 p30〜35 |
| 第二条 | 疑われる善意 | 下心を疑われても、善いと思うことを行う | 第2章 p36〜41 |
| 第三条 | 成功 | うわべの友と本当の敵ができても、成功をめざす | 第3章 p42〜50 |
| 第四条 | 忘れられる善行 | 今日の善行が明日には忘れられても、善いことを続ける | 第4章 p51〜56 |
| 第五条 | 正直と率直 | 隙を見せることになっても、正直で率直にふるまう | 第5章 p57〜65 |
| 第六条 | 大きな考え | 視野の狭い人につぶされても、大きな構想を持つ | 第6章 p66〜75 |
| 第七条 | 弱い側に立つ | 人は結局は勝つ側につくものでも、弱い側のために闘う | 第7章 p76〜82 |
| 第八条 | 築く | 長年の積み重ねが一晩で崩れうるとしても、築くことをやめない | 第8章 p83〜87 |
| 第九条 | 人を助ける | 助けの要る人ほど手を払いのけてきても、助ける | 第9章 p88〜93 |
| 第十条 | 全力を尽くす | ひどい仕打ちが返ってきても、世界のために全力を尽くす | 第10章 p94〜97 |
条文の全文は、第1部の最後にある枠囲みの一覧で確かめてください。第一〜五条はp26、第六〜十条はp27にあります。
本は「逆説」を、常識と矛盾するようでいて真実である考え、と説明しています(p22)。10カ条が逆説と呼ばれるのは、報われないとわかっていても行う、という順序で書かれているからです(筆者の整理)。キースは、10カ条を受け入れれば、筋の通らない世界に振り回されず自由になれると書いています(p23)。
第3部は、外に目を向けることで内側が満たされると説きます(p101)。各章の結びの多くも、相手の反応と関係なく自分は意味を得られる、という形です(p41・p93ほか)。
マザー・テレサの言葉と言われる経緯|作者はキース
逆説の10カ条は、マザー・テレサが書いた言葉ではありません。作者はキースで、本によるとカルカッタにあるマザー・テレサの孤児の家の壁に掲げられていました(p13)。
25年間、作者自身は耳にしなかった
キースによると、10カ条を書いてから25年ほど、自分の言葉を耳にすることはありませんでした(p12)。流れが変わったのは、冒頭の文章(はじめに)を書いた2002年から数えて約6年前です(p12・p15)。
- ホノルル警察の署長から、本土の会議で講演者が読み上げたと電話が来た(p12)
- 1年後、大学図書館の司書が、ネットで出回っていた印刷物を持ってきた(p12)
- 数か月後、南カリフォルニア大学の教授が、大学院の初回の授業で配っていると知った(p12)
1997年、ロータリークラブの会合で聞いた詩
1997年9月、マザー・テレサが亡くなった直後に、キースはロータリークラブの会合に出ました(p12〜13)。会員の一人が、マザー・テレサが書いた詩として朗読したのは、キースに聞き覚えのある言葉でした(p12〜13)。著者の公式サイトによると、朗読された詩の題は Anyway です。
翌日の夜、キースは書店で、ルシンダ・ヴァーディ編『マザー・テレサ語る』の最後の頁に同じ言葉を見つけます(p13)。詩の題は「それでも」で、1968年の10カ条のうち8つが詩の形に並べ替えられていました(p13)。言葉は10カ条と同じで、作者の名はありません(p13)。代わりに、カルカッタの孤児の家シシュ・バヴァンの壁に書かれていた言葉だと記されていました(p13)。
壁の言葉の条の数は、8つと9つの2通り
壁の言葉に入っていた条の数は、説明によって8つと9つに分かれます。本の記述は、10カ条のうち8つです(p13)。公式サイトも、キース本人の言葉としては8つと引用しています。ただし看板の全文を数えると9つで、第六条だけがない、と公式サイトは説明します。
| 項目 | 本の記述(2010年の新装改訂版) | 著者の公式サイトの記述 |
|---|---|---|
| 見つけた本 | ルシンダ・ヴァーディ編 『マザー・テレサ語る』の最後の頁(p13) | Lucinda Vardey Mother Teresa: A Simple Path (1995年、Ballantine Books)の185頁 |
| 壁の条の数 | 10カ条のうち8つ(p13) | キース本人の言葉では8つ 看板の全文では9つで、第六条(大きな考え)だけがない |
| 場所 | カルカッタの孤児の家シシュ・バヴァン(p13) | カルカッタの子どもの家シシュ・バヴァン |
| 作者 | 作者名はなかった(p13) | 2001年の問い合わせに、マザー・テレサの団体が 作者は知らないと返事をした |
本記事では、どちらが正しいかを決めずに両方を記しました。数を確かめたい人は、ヴァーディの本と公式サイトを見比べてください。
2001年の問い合わせ|マザー・テレサの作ではない
著者の公式サイトによると、2001年に米国の出版社がカルカッタのマザー・テレサの団体に作者を問い合わせました。団体の返事は、Anyway はマザー・テレサの作ではなく作者も知らない、という内容でした。
本も、マザー・テレサが10カ条を作ったとは書いていません。キースは、マザー・テレサか仲間の誰かが壁に貼ってくれた、と受け止めました(p13〜14)。子どもの世話をするうえで毎日目にする価値がある、と考えてくれたことに深く感動しています(p13〜14)。
訳者あとがきの言い方では、10カ条は著者の知らないうちにマザー・テレサの言葉として世界に広まりました(p115)。本と公式サイトを合わせると、作者はキースで、マザー・テレサの施設の壁に掲げられていた言葉だと整理できます(筆者の整理)。マザー・テレサの言葉として紹介するのは、出どころの点で正確ではありません(筆者の整理)。
章ごとの読みどころ|10カ条の先にある話
本の読みどころは、10カ条の一条ごとに添えられた具体的な話です。著者の体験のほか、父の体験(p76〜82)や映画(p94〜95)、子どものころ読んだ話(p51〜52)もあります。第六条の章には、大きな考えの実例として渋沢栄一やナイチンゲールも登場します(p70〜74)。
第一条|理不尽な人は、象の別の部分に触れているだけかもしれない(p34〜35)
第一条の章でキースは、理不尽に見える人も、象の別の部分を触っているだけかもしれないと書きます(p34〜35)。人はだれでも扱いにくいものだ、と著者はみています(p34〜35)。
第三条|地位についてくる友と、本人といたい友(p44〜46)
キースは州政府の局長や知事の閣僚を務め、友も敵も急に増えたと書いています(p42〜50)。ところが職を離れた日に、人間関係は一変しました(p44〜46)。
キースは友を2種類に分けます。地位についてくる地位的な友と、本人と一緒にいたい個人的な友です(p45〜46)。出世の階段で会う人には降りるときにも会う、という古いことわざも紹介されています(p44〜46)。
第四条|誰にも見えない土台(p51〜53)
第四条の章には、キースが子どものころに読んだピラミッドの話が出てきます(p51〜52)。若い現場監督が、土に埋もれて誰にも見えない土台の石を、ぴったり合うまでやり直す話です(p51〜52)。誰にも見えないと言われた監督は、「私にはわかります」と答えました(p51〜52)。
章は続けて、築いた土台の成果が後任の手柄になっても、本人は知っていると説きます(p52〜53)。自分の成功も、前任者からの贈り物だと著者はとらえています(p52〜53)。
第五条|キャンプを追い出された夜と、鎧(p57〜64)
大学生のキースは、高校生のキャンプで最年少のカウンセラーとして講演しました(p57〜61)。期待されたのは感じのいい話でしたが、キースは本音で語り、生徒たちは熱狂します(p57〜61)。同じ日の夜に解任され、約30キロ離れたバス停に夜9時半に置いていかれました(p57〜61)。
18歳のときのできごとで、キースは後悔していません(p57〜61)。章の後半では、正直さは隙を見せることだが、心をつなぐ扉でもあると説かれます(p63〜64)。鎧は身を守る反面、自分を閉じ込めもするからです(p63〜64)。強さは鎧からではなく内側から来る、と著者は書いています(p63〜64)。
第八条|砂浜のカメ(p84〜87)
第八条の章には、キースの妻の大好きな思い出として、砂浜のカメの話が出てきます(p84)。妻と4歳だった娘が大きなカメを作り、完成した直後に波が来て消してしまいました(p84)。娘は母に「カメさんは海に戻っていったのよ」と言います(p84)。
著者によれば、作る喜びは、作ったものが残るかどうかでは決まりません(p84)。人が作るものの大半は一生ももたない、とも著者は認めています(p85〜87)。ただし、築く喜びと意味は本人のものとして残る、と著者は続けます(p85〜87)。
第九条|文句ばかりの老人と、運転手のアルバイト(p88〜93)
大学生のころ、キースは体の不自由な老人の外出に付き添う、運転手のアルバイトをしていました(p88〜90)。大企業の創業者だった老人は、外出のたびに文句ばかり言いました(p88〜90)。ある日キースは、老人が苛立っている相手は自分ではないと気づきます(p88〜90)。思うように動けない自分自身に、老人は苛立っていたのです(p88〜90)。
気づいてからは、文句が続いても気にならなくなったと書かれています(p88〜90)。章の後半によれば、無力さや依存を認めたくない人は、助けようとする人を攻撃することがあります(p91〜93)。
助けるときの条件として本が挙げるのは、相手の尊厳を損なわず、選択肢を残すことです(p91〜93)。恩着せがましくしないことも、条件に入ります(p91〜93)。
第十条|映画『真昼の決闘』と、全力を尽くさない代償(p94〜97)
第十条の章は、映画『真昼の決闘』を例に引きます(p94〜95)。町に尽くした保安官が、危機のときに町の人に見捨てられ、一人で闘う話です(p94〜95)。最善を尽くした結果は予測できない、と著者は書きます(p94〜95)。
全力を尽くすと、高くつく場合があることも著者は否定しません(p96〜97)。もっと高くつくのは、全力を尽くさずに本来の自分でなくなることだと述べています(p96〜97)。
きれいごとに聞こえる、という疑問への答え
きれいごとに聞こえるという疑問には、本の解説と本文が別々に答えています。解説は会社での実践に反論し、本文は続けるための工夫を示します(p100〜106・p121〜127)。
解説の反論|十人に一人は切るしかない
巻末の解説で佐々木常夫氏は、第一条は常人には難しく、だからこそ衝撃があると述べます(p121〜122)。課長や部長の経験から、部下を動かす立場で人を愛せというのは実際的でないとも書いています(p121〜122)。
佐々木氏によれば、十人に一人は怠け者やわがままな人で、最終的には切るしかありません(p122)。会社は戦闘集団で、切る判断も管理者の心得だという立場です(p122)。
佐々木氏の見方では、愛するのはいつか相手もわかってくれると思うからです(p124)。だから愛にも功利主義があるのかもしれない、と佐々木氏は書き、変わらない人を愛し続ける意味を問います(p124)。映画『明日の記憶』を例に、記憶を失っていく夫に誰かと問われた妻は愛し続けられるか、とも問いかけます(p124)。
解説は、本を退けてはいない
反論を重ねながらも、佐々木氏は本が広まってほしい理由を挙げています。家族も会社も、愛もコミュニケーションも足りない時代だからです(p125)。
佐々木氏は家族の病気を抱えた経験から、家族には無償の愛を注ぐのが信条だと述べます(p123)。第二条から先には、見返りもあると書いています(p125〜126)。例に挙がるのは、次の3つの条です。
- 第三条:地位を降りたとき、人の品格がわかる(p125〜126)
- 第五条:芝居は周りにばれるので、場所で態度を変えないほうが楽(p125〜126)
- 第七条:放っておくと強者はより強くなるので、弱い人を引き上げる仕組みが要る(p125〜126)
解説は、万人を愛さなければならないわけではないと結びます(p127)。職場で仲良くできない人もいるとしたうえで、日々の働き方にも生かせる良い本だと評しています(p127)。
本文の答え①|評価は他人の問題、誠実さは自分の問題(p104〜105)
第3部は、上司が評価してくれないから手を抜く、という理由を認めません(p104〜105)。誠実さの問題は自分の問題で、他人の問題ではないからです(p104〜105)。拍手を求めると、自分の幸せを他人の気まぐれに預けることになるとも書いています(p105)。
本文の答え②|燃え尽きないために、最初に体を整える(p106)
第3部は、燃え尽きないための心得も説いています(p106)。心得の一つめは、運動と食事と睡眠で、最初に自分の体を整えることです(p106)。全部を背負わずに、関わることを選ぶよう勧めてもいます(p106)。
本文の答え③|助け方には3つの選択肢がある(p102〜103)
困っている人を前にしたとき、選べる道は3つあると本は整理します(p102〜103)。3つの道を、本の並びのまま挙げます。
- 無視する
- 弱みにつけこむ
- 正しく助けようとする
本が道にかなうとするのは、三つめの正しく助けようとすることだけです(p102〜103)。筆者の整理では、正しい助け方の中身は第九条の章の尊厳と選択肢を残す助け方にあたります(p91〜93)。
本文と解説を合わせると、書名の呼びかけは、ひどい扱いに耐え続けろという意味ではないと読めます(筆者の整理)。助ける相手を選び、自分の体を守り、相手の尊厳を残すことが前提になっているからです(筆者の整理)。
筆者の注意:暴力や深刻な被害がある関係では、自分の安全を何より優先してください。本の呼びかけは、危険な相手のそばにとどまる理由にはなりません。身の危険を感じるときは、公的な相談窓口や信頼できる人に早めに相談してください。
40代の職場と家族で読む3つの読みどころ
本の話を40代の職場と家族の場面に置き換えると、読みどころが3つ見えてきます。3つの場面は本に書かれた例ではなく、筆者の置き換えです。
役職定年で人が離れたとき|地位的な友と個人的な友
土台になる本の記述は、第三条の章の2種類の友です(p45〜46)。解説も、地位を降りたときに人の品格がわかると書いています(p125〜126)。
筆者の置き換えでは、役職定年や異動で肩書きが外れ、連絡が途絶える人が出てくる場面にあたります。筆者の提案は、離れた人を責めるより、残った人との付き合いを大切にすることです。本も、家族と古い友を大切にするよう勧めています(p42〜50)。
手柄が後任のものになったとき|見えない土台
土台になる本の記述は、ピラミッドの土台の話と、成果が後任の手柄になる話です(p51〜53)。評価は他人の問題で誠実さは自分の問題だ、という第3部の考えも重なります(p104〜105)。
筆者の置き換えでは、自分が異動したあと、育てた企画が後任の実績として評価される場面です。筆者の提案は、自分が積み上げたことを、自分の手で書き留めておくことです。自分の成功も前任者からの贈り物だった、と振り返る見方も本は示しています(p52〜53)。
親の世話で、助けを恨まれたとき
土台になる本の記述は、第九条の章の運転手のアルバイトの話です(p88〜90)。助けの要る人ほど、助けようとする人を攻撃することがある、と本は書いています(p91〜93)。
筆者の置き換えでは、親の通院や身の回りを手伝うほど、親から文句を言われる場面にあたります。筆者の提案は、文句の宛先が自分ではなく、思うように動かない親自身の体かもしれないと考えてみることです。
親の選択肢を残し、恩着せがましくしない助け方は、本の記述と重なります(p91〜93)。手伝う側が燃え尽きないよう、最初に自分の体を整えることも本は勧めています(p106)。
📚 ケント・M・キース『それでもなお、人を愛しなさい』(大内博訳)
早川書房。第2部は10カ条の一条ずつに章があてられているので、いま気になっている一条から読み始められます。本記事のページ番号で箇所を追いたい人は2010年の新装改訂版を、持ち歩きやすさで選ぶなら2016年の文庫版(ハヤカワ文庫NF)を。
楽天ブックスでの価格は新装改訂版が1,100円、文庫版が1,056円(いずれも税込。2026年10月19日確認。在庫や価格は変わることがあります)。
この本はAudibleでは配信されていません(2026年10月19日確認)。ほかの本を耳で読む方法に関心がある人へ:目が疲れて、本が読めなくなった40代へ|「耳で読む」という新しい読書のかたち
![]()
よくある質問
逆説の10カ条の作者は誰ですか
作者は本書の著者キースで、ハーバード大学2年の19歳のときに書きました(p9)。高校の生徒会リーダーに向けた小冊子の一部で、1968年に出版されています(p9)。
逆説の10カ条は、マザー・テレサの言葉ではないのですか
マザー・テレサが書いた言葉ではありません。カルカッタにあるマザー・テレサの孤児の家の壁に、作者名なしで掲げられていました(p13)。著者の公式サイトによると、2001年の問い合わせに、マザー・テレサの団体は作者を知らないと答えています。
広まった詩と、本の10カ条は同じですか
言葉は同じですが、詩の形に並べ替えられ、条の数も10より少なくなっています(p13)。本と著者の言葉では8つです(p13)。公式サイトは看板の全文から9つと数え、入っていないのは第六条の大きな考えだけだと説明しています。
英語の原題は何ですか
原書の題は THE PARADOXICAL COMMANDMENTS で、2001年に出ました(扉裏)。著者の公式サイトによると、ロータリークラブで朗読された詩の題は Anyway でした。本記事では、英語の条文の全文は載せていません。
どこから読めばよいですか
筆者の提案は、冒頭のはじめに(p9〜15)と、第1部の最後の10カ条の一覧(p26〜27)を先に読むことです。一覧のあとは、気になる条の章から読んでも流れを追えます(筆者の提案)。きれいごとに聞こえる人は、巻末の解説(p121〜127)を先に読む方法もあります。
『それでもなお、人を愛しなさい』は、ひどい扱いに耐えろという意味ですか
本の記述からみて、耐え続けろという意味ではありません(筆者の整理)。本は相手の尊厳と選択肢を残す助け方を勧め、最初に自分の体を整えることも説きます(p91〜93・p106)。解説も、万人を愛さなければならないわけではないと結んでいます(p127)。暴力や深刻な被害がある関係では、自分の安全を優先してください(筆者の注意)。
まとめ|報われるかどうかと、行いの意味を切り離す
『それでもなお、人を愛しなさい』の中心は、行いの意味を結果や見返りから切り離す考えです(p23・p101)。10カ条の着想の一つも、高校の表彰式で賞の前に味わった満足でした(p11)。
解説の佐々木氏は、会社で第一条を実践するのは実際的でないと反論しました(p121〜122)。本文は、評価を他人の問題として切り分け、燃え尽きない工夫と助け方の選び方を説いています(p102〜106)。
本を読みながら考える問いを、3つ挙げます。読書会や感想文の話題にも使える、筆者の整理です。
- 誰にも見えないところで、自分が手を抜いていないことは何か
- 肩書きが外れても、そばにいてくれる人は誰か
- 相手の反応と関係なく、自分が続けたい行いは何か
――グレイス
参考・出典
- ケント・M・キース著、大内博訳
『それでもなお、人を愛しなさい――人生の意味を見つけるための逆説の10カ条』
早川書房、2010年(新装改訂版) - 原書:Kent M. Keith, THE PARADOXICAL COMMANDMENTS(2001年)
- 著者の公式サイト(マザー・テレサとの関係を説明したページ)
https://paradoxicalcommandments.com/motherteresaconnection
本の記述とページ番号は、2026年10月17日に新装改訂版で確認しました。著者の公式サイトの記述も、2026年10月17日に確認しています。
肩書きが外れたあとの人間関係を考えるなら:肩書きで増えた人、肩書きで去った人――役職定年で見えてくる「友だちの正体」
報われない思いを抱え込みすぎたと感じるなら:コントロールを手放すと、なぜ心が軽くなるのか|抱え込みすぎた40代へ
報われなくても続ける生き方を、明治の講演で読むなら:内村鑑三『後世への最大遺物』の読みどころ|4つの遺物と「勇ましい高尚なる生涯」の意味、青空文庫で読む方法
笑われても善いことを始めた老人の物語を読むなら:ディケンズ『クリスマス・キャロル』の読みどころ|スクルージが変わった場面と名言、2026年の映画の前に
気づかれなくても植え続けた男の物語を読むなら:ジオノ『木を植えた人』の読みどころ|実話ではない根拠と、気づかれずに続いた理由、楓の全滅と方向転換